◎エンターテイメントの部屋◎
ここでは、エンターテイメント小説に分類される(と、塩野が思う)本の中から、
塩野泉のお気に入りを紹介します。
『剣客商売』 池波さんの書かれた多くの作品のなかでも、わたしはこのシリーズが一番好きです。 池波さんの作品全てに言えることは、文章がとにかくいい! それに、出てくる料理の美味しそうなこと! そう、季節感とか文章からただよう気配が、色っぽいと言おうか、なんとも言えない良さがあって。 剣客商売について言えば、魅力的なキャラクターも忘れることはできません。 読みやすくて、しかも読み始めると次が読みたくなって止まらないという、受験生泣かせのシリーズです。(実際、受験の時は誘惑に打ち勝つのに大変だったのよ、ホント) |
『オデッサ・ファイル』 歴史上、大規模な殺戮や虐殺というものは、枚挙に暇がないほど行われてきた。古代中国しかり、新大陸の原住民の虐殺しかり、日本の中国に於ける三光作戦・南京大虐殺しかり、原爆投下しかり。 しかしながら、第二次世界大戦中のナチスドイツほど徹底した、計画的な、「絶滅を目的とした」民族浄化という大虐殺を、私たちは他に知らない。多くのドイツ国民でさえ、身近にいたユダヤ人たちが連れ去られた後、どこでどうしているのかを知っていた者は少なかったという。そして戦後、ドイツ人は自らの知らないところで行われていた凄まじい虐殺の事実に衝撃を受けたのである。 ところが、こうした虐殺や殺戮の事実を知っていた人々もとうぜん存在した。ナチスドイツの中枢にあった人々、つまり軍上層部、一部の高級官僚、それにもちろん絶滅収容所で作業にあたっていた人々である。SS(ナチス親衛隊)もこうした「知りすぎていた」人々の範疇に入るだろう。 彼らは知っていた。ドイツが戦争に負けつつあることを── 一般市民の多くは知らなかった。大本営発表のように、ゲッペルスをはじめとするナチスの宣伝を信じていた──そして、ユダヤ人(と、一部の戦争捕虜)を組織的に、計画的に、機械的に、「絶滅」させるべく虐殺を行っていることを。 彼らは恐れていた。戦争に敗れ、史上空前の大虐殺が世界の人々の前に明るみになった時、自分たちがどのような運命を辿ることになるか、彼らはイヤになるほどよくわかっていた。
事実、あまりにリアルな内容のため、フォーサイス自身に注目が集まることもままあって、ある作品の調査のためにヨーロッパ某国の裏の武器市場にいたとか、アフリカ某国のクーデターを助けるためにタンカーに大量の武器弾薬を積載して送り出し、途中臨検で発覚したとか、そういう噂が── 一部事実ともいわれるが──絶えないのだ。 さてこの作品だが、スリリングで緊張感にみち、読み出せば夜眠れなくなること請け合い、と常套句を羅列すれば、それが全てを語るだろう。スリラーを紹介するのに、内容をばらすことほど間抜けなことはないのだから。 ──八月の寒い朝、フィテリコ・ベグネルという老人が心臓発作を起こし、病院に担ぎ込まれ、後に死亡した。遺留品などから逃亡中のナチス戦犯ではないかとの疑いが持たれ、ICPO(国際刑事警察機構)からの捜査資料とつき合わせたところ、指紋や歯形などからロシュマンであることがこのほど判明した。ロシュマンはベルリン陥落直前に姿を消したが、その捜査劇は世界的なベストセラー『オデッサ・ファイル』に詳しい。ロシュマンの遺体を検視した解剖医は次のように語った。 (1977年11月7日付朝日新聞 パラグアイからの特派員電(あとがきより抜粋)) |