◎歴史物語の部屋◎
ここでは歴史物語に分類される(と、塩野が思う)本の中から、
塩野泉のお気に入りを紹介します。
『ローマ人の物語W・X』 この本は、ローマに在住の作家、塩野七生が年一冊のペースでローマ人について書き下ろすというもので、現在[まで出版されている。 知力ではギリシャ人に劣り、 著者の塩野七生さんは、イタリア語に堪能で、原典資料に直接当たることで古の人々の息吹を伝える見事な文章をものしている。 ただし、この『ローマ人の物語』は、初心者には少々難解かもしれない。 W・Xはルビコン河を越える以前のカエサルと、越えて後のカエサルを描いている。つまり、主役は「ユリウス・カエサル」という個人なのだ。この圧倒的な個人を描くことなくローマ人を描くことは、いかに塩野さんでも不可能だ。なぜなら、カエサル以降のローマはすべからくカエサルという巨人の事跡・業績の上に築かれたからである。 歴史は、あくまで大衆のものであり、個人の影響力など微々たるもの。しかし、この歴史という怪物は時に人類史そのものを左右するような、あるいはその時代の全てを体現させるような巨大な「個」を産み落とす。アレクサンダー大王、チンギス・ハーン、イエス・キリスト、仏陀……。 こうして、ユリウス・カエサルという史上の巨人をとりあげた『ローマ人の物語W・X』はシリーズのなかでも最も読みやすいものとなった。つまり、特定個人を中心にしているために見通しがよく、感情移入もしやすいからだ。 もしも、この二冊でローマに関心興味を持ったなら、あるいはなぜユリウス・カエサルという巨人が生まれることになったのか知りたくなったなら、その時、Tから読み始めればいい。 何しろ、塩野さんの著作である。例えばTとて決してできが悪いとか、そういうことではないのだから、読み始めたら止められなくなることは保証できる。 |
『麗しの皇妃エリザベト──オーストリア帝国の黄昏』 「わたしが皇妃をどれほど愛していたかは、誰にもわからないだろう……」 |