『閉じられた森』
5、 ―――街に戻って、登録所に立ち寄ったユアンは、受付担当者に、小さな布袋を手渡された。アイラに出発前に「ユアンがこの街に戻ったら渡して欲しい」と預けられたものだという。 受け取って中をのぞくと、そこには往復分の依頼料が入っていた。 ユアンはそれを握り締めたまま、しばらくカウンターの前に立ち尽くしていた。脳裏に「……ほんとに、片道でいいんです」と言った、アイラの少し困ったような顔が浮かんだ。 ―――本当に、最初から最後まで、あの子は生きて帰る気がなかったのだ……。 森への道中で、生きて帰ることの無い道を歩きながら……自分と喋りながら……あの少女は何を思っていたのだろう。 「俺は……死ぬ覚悟を決めた人間を、その死に場所まで『護衛』したってことか……」 そんな護衛もあるということを、5年目にして初めて経験することになろうとは……。護衛の依頼をしてくるのは、いつでも命が惜しい人間だろうと思っていた。それが普通であり、当然だったのだ。 つい2日前までは……。 レバンの森は、人ひとり入れない封印された森となった。 アイラの移り香がかすかに残る布袋を懐にしまうと、ユアンは花屋に向かって歩き出した。 〜End〜 |
「The Bookmarker's Bay」の蔡子さんより頂きました!
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