『終わりなき冬の物語』


序、


 容赦なく吹き寄せる雪と、終わることなく続く冬風は、小屋の窓をガタガタとふるわせていた。しかし小屋の中はあたたかな光で満ちていた。赤いレンガを積み上げたささやかな暖炉には、パチパチと楽しげに薪がはぜる。
 まだあどけなさの残る少年は、ガタガタとふるえる窓を気にして老人に訊ねた。
「ねえ、じいちゃん、この風、いつまで続くの? このウチこわれちゃわないかな?」
 老人は紫煙を吐き出すパイプをくわえたまま、少年に微笑を向けた。
「大丈夫だよ、坊や。このウチは頑丈だ。なんたって、このわしとお前の父ちゃんが建てたんだからな。ワイの息吹くらいじゃあ、壊れやしないよ」
「じいちゃん、ワイってなに?」
 少年は、キョトンとして老人に訊ねた。
「おや、ワイのお話を聞いたことないのかい、坊や?」
 少年はうなずいた。
「母ちゃんも、はなしてくれなかったよ」
「そうか……」
 それっきり、老人は黙り込んでしまった。
 パイプから紫色の煙がゆっくりと天井へ立ちのぼってゆく。窓は冬風にガタガタとふるえ、暖炉からあふれるあたたかな光は、しかし老人の横顔に複雑な陰影を描き出した。
 少年はいい知れない不安感を感じて、窓際から老人の傍へと駆け寄った。足の太い椅子に腰を下ろす老人の膝のうえにまたがって、少年は不安げな瞳で老人を見上げる。
 老人は、孫のその表情に何をみたのだろうか。
 あるいは失った息子の面影だったのかもしれない。
 老人はふっと表情を緩めると、孫をしっかと抱えなおした。
「よし、坊や、それじゃ話してやろうかな。冬の女神のお話を」
 少年は、老いてなお力強い老人の腕に抱かれて安心したものか、不安な表情は春の雪のようにとけてしまっていた。お話、というだけで嬉しくなって、聞かせて欲しいほしいと老人にせがむ。
「これはな、わしが坊やくらいの頃、わしのじいさんに聞いたお話だ。じいさんはそのまたじいさんに聞いたという。とにかく、ずっとずっと昔のお話だよ。とても長くて、とても悲しいお話だ……」
 そこで老人はちょっと言葉を切って、遠くを見るような表情を浮かべた。

「そのお話は、こんな風に始まるんだよ。
……それはずっとずっと昔のこと。星々の光さえ今とは違っていたころのことでした──」

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