白い布の海の中に溺れたおれは、いつまでもここから抜け出すことができないでいる。
 隣で、シーツにくるまりスースーと寝息をたてる女の横顔を見つめながら、おれは苦笑を漏らした。
 結局は、意志の問題だというのに。
 おれは、この女のせいにして、自らの意志でこの状況を抜け出すことを諦めている。

 タバコを取り上げ、火をつける。
 あたりがパッと明るくなり、狭苦しい部屋の有様を映し出す。
 ユラユラと形をかえながら、闇の中へと立ち昇る紫煙。
 隣りで安らかな寝息を立てていた女はコホンと咳をして目をさました。

「……ちょっと、寝タバコはやめてって言ったでしょ」
 キツイ表情でおれをにらむ女。
 おれはしかたなく、タバコを消した。
「そう、それでいいのよ」
 満足げに微笑んでそう言うと、女はおれに絡みついてきた。
 甘える仔猫のように、獲物を締め付けるヘビのように。

「ねえ」
 女はおれに顔を寄せてきた。
 この女はタバコ嫌いのくせに、おれがタバコを吸った後にはかならずキスをねだる。
 妙な話だ。
 そっとくちびるが触れ合い、やがて舌が絡まる。
 女は切なげに眉根を寄せて、もっととでも言いたげに、はげしく求めてくる。
 常のこととは言いながら、おれは逃げ出すことができない。
 
 濡れた音が響くベッドの傍らでは、タバコの燃えがらからゆらゆらと白い煙が立ち昇って行く。
 白煙の行く先は、真っ暗な闇──



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