真っ暗な闇が詰まっているように見えた。
 店主のコトバを借りれば、銀河が詰まった瓶だという。
 小瓶の首に掛かった値札を見て、おれは顔をしかめた。
 これはちょっと高くないか、と言いたげな表情をつくる。
 しかし白髪の店主は微動だにしない。
 貼りついたような笑顔を崩すことなく、やわらかい口調でおれに説明する。

「ダンナ、ダンナがお求めになっている品を商っていますのは、この界隈ではウチだけなんですよ。人間から蚤まで、ありとあらゆる商品があつまるこの街で、ウチだけが扱っているという意味をよく考えてくださいな。その上、ウチは良心的な価格をつけることで知られておりまして。ダンナがそいつをお買いになったとして、損するのはダンナじゃなくて、ウチのほうでして──」

 饒舌な店主を黙らせて、おれはその小瓶を見つめた。
 どこまでも深い闇色をしていて、振る度に見える微かな煌めきは、銀河のように思えなくもない。
 ともかく、もうすこし他の品も見てみようと、小瓶をカウンターにおいて、店内を見回した。
 そこら中に奇妙な品が所狭しと陳列されていた。
 カウンターに置いた小瓶とよく似たモノは壁一面を覆っている。
 小瓶の前には、銀の小さなプレートがついていて、中身を説明しているらしいが、あいにくおれには読めない文字だった。
 反対側には、まったく別種の商品が並んでいる。
 透明な樹脂を固めたような涙滴型の宝石。このプレートの文字はおれにも読めた。
 「悪夢の王の涙」だと。
 他にも、「弱気な獅子のたてがみ」、「金剛石の粘土」、「太陽の冷や汗」、「天使が通る針穴」など、何に使うのかわからない商品が並んでいる。

 おれは結局「銀河の詰まった小瓶」を買うことにした。
 おれが代価を支払い終えると、白髪の店長はこう忠告した。
「ダンナ、くれぐれも自分で飲んだりしないようにしてくださいよ。ヒトに飲ませてもらってこそ、意味があるんですから。おわかりでしょうけど──」
 おれは右手を振って饒舌な店主を黙らせると、店を後にした。

 店のそとはもう夕暮れが迫っていて、あたりは茜色に染まっていた。
 おれは立ち止まって、西の地平に沈んでゆく太陽を見つめた。
 巨大にふくれあがった太陽は、不気味なほど赤々と燃えて──



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